男子セブンズ日本代表熊谷合宿、サイモン・エイモーHC「保守的な戦いでは何も変わらない。もっと勇敢に、リスクにチャレンジしていかないといけない」 | ラグビージャパン365

男子セブンズ日本代表熊谷合宿、サイモン・エイモーHC「保守的な戦いでは何も変わらない。もっと勇敢に、リスクにチャレンジしていかないといけない」

2024/05/01

文●大友信彦


4月29日、男子セブンズ日本代表候補の熊谷合宿での練習を公開した。今回の合宿にはSDSの3人を含む16選手が参加していた。

参加選手は以下の通り(カッコ数字はキャップ=出場大会数)


石田吉平 24 横浜イーグルス(18)
石田大河 26 浦安D-Rocks/日本協会(22)
植田和磨 21 近畿大(4)
奥平 湧 24 相模原ダイナボアーズ/日本協会(16)
加納遼大 31 明治安田生命ホーリーズ(36)
野口宜裕 29 セコムラガッツ(34)
林 大成 31 日本協会(47)
福士萌起 25 日野レッドドルフィンズ(26)
松本純弥 24 浦安D-Rocks/日本協会(15)
丸尾崇真 25 神奈川タマリバクラブ/日本協会(18)
吉澤太一 32 レッドハリケーンズ大阪/日本協会(21)
古賀由教 25 ブラックラムズ東京 (13)
津岡翔太郎 28 コカ・コーラボトラーズジャパン/日本協会(22)

加納遼大

加納遼大


丸尾崇真

丸尾崇真


古賀由教

古賀由教





▼SDS
大内 練 25 スカイアクティブズ広島(1)
新野 翼 21 専修大
谷山隼大 22 埼玉ワイルドナイツ


昨年11月のパリ五輪アジア予選を勝ち抜いた後、昨年12月の福岡合宿では21人のスコッドで合宿をしたが、2024年に入ってからは概ね今回と同様のメンバー構成・人数で合宿を繰り返している。その間、1月にはUAEで、3月にはウルグアイで行われたワールドラグビー・チャレンジャーシリーズに出場。

これは来年のワールドシリーズ昇格を争う大会だが、日本はUAE大会で5位、ウルグアイ大会では10位と振るわず。4月はじめには香港セブンズと同時期の香港で行われた「メルローズシールド」に出場、香港、中国と3カ国で総当たり戦を行い2位に終わった。しかし、今回の熊谷合宿でもメンバーはほぼ同じ。サイモン・ジャパンはこのメンバーでパリ五輪まで突き進むのだろうか。


練習後にサイモン・エイモーHCが囲み取材に応じた。




16人のスコッドは全員「日本人」。サイモンHC「15人制の選手を6月までにセブンズに適応させるのは現実的ではない」

サイモン・エイモーHC

サイモン・エイモーHC



「今は16人のスコッドで合宿を繰り返しています。ケガ人が出ない限り、このメンバー、この人数で活動していこうと思う。日本の選手はセブンズの実戦経験が少ないので、大事なのはセブンズの実戦形式で練習して、経験値を高めること。これ以下だと実戦形式では練習できないし、これ以上の人数がいても難しくなる」

谷山隼大

谷山隼大



16人の中には、昨年のアジア予選以後に加わったSDS(セブンズ・デベロップメント・スコッド)メンバーとして大内錬(スカイアクティブズ広島)、谷山隼大(埼玉ワイルドナイツ)、新野翼(専大)が入っている。昨年1月にワールドシリーズ2大会に出場した植田和磨(近大)も、4月はじめの香港遠征まではSDSの位置づけだった。

「ハヤタ(谷山)は素晴らしい才能を持っている。あまりにすごいので、僕も思わずロビー・ディーンズにメールをしたくらいだよ(笑)。シンノ(新野)もレン(大内)も素晴らしい才能を持っている。2人はまだセブンズの経験が少ないけれど、それは伸びしろだと思っている。

植田和磨

植田和磨



カズマ(植田)はワールドシリーズを2大会経験して、そのあと15人制に戻っていたけれど今年またセブンズに戻ってきてくれたね。15でも7でも高いポテンシャルを持っていると思う。五輪のセブンズでメダルを取るには平均26歳、ワールドシリーズ40大会の経験が必要と言われているけれどね」



過去2度の五輪では、五輪イヤーになって15人制からセブンズへ参戦してくる選手が何人かいた。今回もそういう選手の招集はあるのだろうか? サイモンは首を振った。

「リーグワンが終わるのは5月中旬から下旬。6月中には五輪スコッドを発表しなければならない。時間があまりにも足りない。そこからセブンズに適応させるのは現実的ではない」

フランスのデュポンやオーストラリアのフーパーのような15人制のレジェンドを呼ぶ考えはない? との質問には「彼らは1月からセブンズに合流していたからね」と笑い「リーグワンのクラブが選手を保有しているから、こちらのスコッドに入れることはできない」と言った。

過去2大会と事情が違うのは「リーグワン」の存在だ。リーグワンの設立に伴い、それまでは1~3月頃に終わっていた国内シーズンは5月いっぱいまで伸びた。それだけではない。各クラブには事業性、社会性が求められ、ホストゲームでの集客力をあげ、収益をあげることが奨励された。各クラブはその実現のために多くの選手を雇用し、ファンに来場を呼びかける。そうなると今まで以上に、主力選手をセブンズへ供出することは難しくなるだろう。


石田吉平

石田吉平



そんな中でも横浜イーグルスは石田吉平を、相模原ダイナボアーズは奥平湧を、ブラックラムズ東京は古賀由教を、浦安D-Rocksは松本純弥を、レッドハリケーンズ大阪は吉澤太一を、日野レッドドルフィンズは福士萌起といった選手をセブンズのスペシャリストとして、派遣あるいは出向の形でセブンズに送り出している。埼玉ワイルドナイツも新加入の谷山隼大を、スカイアクティブズ広島も大内錬を、SDSという位置づけでも派遣している。

とはいえ、15人制の戦場で看板となっている選手を送り出せるかといえば話は違ってくる。11月のアジア予選では優勝に大きく貢献したケレビ・ジョシュアも予選後はチーム(シャトルズ愛知)へ戻り、開幕の釜石SW戦こそ欠場したが、2戦目の東葛戦からは全11試合に先発して6トライをあげている。劇的逆転勝ちを飾った4月28日の東葛戦ではプレイヤーオブザマッチにも輝くなどチームの中軸だ。そして12月以降はセブンズの合宿には参加していない。入替戦終了後に合流する可能性はゼロではないだろうが、サイモンは「セブンズから離れているし、セブンズで求められる長いランニングができるかというと難しいかな」と言った。

リオと東京の2度の五輪に出場したフィジー出身の副島亀里ララボウラティアナラは昨秋の五輪予選直前まではスコッドに入っていたが「ギャム(副島)は日本のセブンズにはたいへん貢献してくれた。大功労者だけど、さすがにもう41歳。年々スピードが上がっている現在のセブンズでプレーするのはもう難しい」とサイモン。チャレンジャーシリーズ2大会に出場したティモ・スフィア(北海道バーバリアンズ)はワールドラグビーの代表資格は有していても日本国籍を取得していないため五輪の出場資格はない。


……という流れから、現在の16人のスコッドは見事に「国産車」が並んだ。しかしサイモンはそれを否定的には捉えていなかった。

「日本人選手だけのチームになったことでプラスの面もある。今はチームの連携がうまくいっている。ギャム(副島)がいたときはジョシュア(ケレビ)とのフィジアン2人のコンビネーションが機能したけれど、それでも他の5人の日本人選手との意思疎通はうまくいかないところもあった。今は日本人選手だけなので、意思疎通がとてもスムーズだ」

サイモンは、日本が五輪でメダル獲得を目指すには普通のラグビーではなく、独特なラグビーを目指すべきだと考えている。

スローガンは Fast & Brave

「3年前に日本に来て、当初はまずフィジカルの強化が必要だと考えた。アジア予選に勝つにはシンプルでセーフティーな戦い方が必要だったし、それはアジア予選優勝という結果に繋げることができた。でも五輪本番で強豪を破ってメダルを獲得するにはもっと進化しなければならない。大きな相手に勝つにはアタックでもディフェンスでもリスクを覚悟でプレッシャーをかけていかなければならない。必要なのは速さと勇気。だから『Fast&Brave』というスローガンを掲げてきた。それが実現できれば、スタッド・フランセの8万人の観衆を味方につけることができる。2015年のワールドカップでブライトンの観客がみんな日本を応援したようなサポートが再現する」

「Fast&Brave」というスローガンは五輪予選突破後に「Faster&Braver」へとバージョンアップした。
もっと速く、もっと勇敢に。そんな特殊なラグビーを磨き上げるには「国産車」のみの布陣はむしろコミュニケーション面でプラスだというのだ。

サイモンはこう言った。

「日本の文化はミスに対して厳しいところがあるし、国の代表となればプレッシャーはさらに高まる。だけど、保守的な戦いでは何も変わらない。もっと勇敢に、リスクにチャレンジしていかないといけない」

厳しく見れば、現在の日本男子が世界で結果を出せていないのは事実だ。日本が五輪本番で上位進出を狙えるとしたら、可能性の低いところにチャレンジするシナリオを夢想するしかない。主将の林大成は言った。

林大成キャプテン

林大成キャプテン



「五輪予選が終わってからは、五輪でメダルを取るために、リスク覚悟で仕掛けていくラグビーに特化して準備を進めています。その意味では、今シーズンはワールドシリーズに出ていないことで、自分たちのスタイルを知られないというプラスの部分もある。この前、フィジーに行ったときも、最初の試合では相手も面食らっていましたから。ワールドシリーズに出ていないこともアドバンテージになるかな」

都合の良い理屈にも聞こえるが、「現状で日本はワールドシリーズの下、15~16位の位置からメダルを目指すんです」と林。どの道失うもののないところからの挑戦だ。可能性は高くなくても、その小さな可能性を広げていくことでしか勝利への道筋は見えてこない。

成功は約束されていない。だがチャレンジしなければ何も手にできないのは明白だ。
失うものがないのはむしろラッキーだ――そのくらいの発想でなければ、ここからの挑戦は始まらないのだ。日本男子セブンズの、崖っ縁からのチャレンジが始まった。

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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