太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2025札幌大会は17日開幕―ベテランたちの挑戦、藤崎春菜・堤ほの花 | ラグビージャパン365

太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2025札幌大会は17日開幕―ベテランたちの挑戦、藤崎春菜・堤ほの花

2025/08/12

文●大友信彦


太陽生命ウィメンズセブンズシリーズには各大会12チーム、13人の選手が登録される。チームによってはさらに複数名のバックアップ選手が帯同する。全部をあわせれば150人を超える。そこには選手の数だけドラマがある。


史上初の3連覇のために戻ってきた――藤崎春菜(ながとブルーエンジェルス)

藤崎春菜

藤崎春菜


ながとブルーエンジェルスの藤崎春菜は、昨季を最後に引退すると話していた。だが今季の太陽生命シリーズが開幕すると、何のことはない、プレーを続けている。熊谷大会では背番号1で登録され、プール初戦のディアナ戦と3戦目のナナイロ戦では先発して14分間(+α)フル出場するなど途中出場も含め全6試合に出場。北九州大会は欠場したが、花園大会ではまたもフル出場2試合を含む全6試合出場だ。北九州までの2大会でグランドファイナル進出を決めていたながとには、若手に経験を積ませつつ、暑熱の過酷な花園大会での消耗を避けるという選択肢もあったはずだが、そうはしなかった。


「最後のグランドファイナルはもちろん大事なのですが、チームとしてそこまでの3大会も全部勝ちたいと思って準備しているし、対戦する全チームをリスペクトして、毎大会絶対に優勝してやるという気持ちで練習して、毎大会メンバーに選ばれたいという気持ちでやっています。全員、命がけで戦っています」

ところで……と尋ねてみた。


――藤崎さん、去年で引退するって言ってませんでしたっけ?


藤崎は苦笑して答えた。


「はい。去年で引退する予定で、みんなにもそう伝えていました。でも『太陽生命シリーズでまだどこのチームも達成していない3連覇が目の前にある。それを一緒に達成しないか』と、HCのジョージさん(村杉徐司さん)に言われて。私自身、新しいことに挑戦するのが好きなので、やってみようという気持ちになって復帰しました」


――引退して、何かラグビー以外のことをやろうとしていたのですか?


「いえ、特に何かがあったわけじゃなく『そろそろ大阪に帰りたいな』という気持ちになっていたんです。ラグビーもずっとやってきたし、いい歳にもなったし(笑)。2連覇を飾ったのを区切りにしてもいいかな、と…。でも、『どこもやっていない3連覇を達成しよう』と言われて、それもいいな、諦められないな、という気持ちになりました」


そもそも太陽生命シリーズの総合2連覇自体、2019-2021(2020はコロナ禍で中止)と2023-2024のながとしか達成していない。アルカスが無敵だった2014年の初年度はまだ総合優勝が設定されていなかった。総合優勝はながとが4度達成している以外はアルカスと日体大が2度、東京山九フェニックスが1度。それを考えると3連覇はとてつもない偉業だ。そして藤崎は、2019年の初優勝から過去4度の総合優勝を飾ったすべての大会に出場してきた。ブルーエンジェルスの歴史を築いてきたレジェンドなのだ。

太陽生命シリーズに初出場したのは大会誕生2年目の2015年、追手門学院大1年のシーズンだった。それから数えて11シーズン。追手門を卒業してながとに加わって7年。シリーズ通算トライは花園大会の「1」を加えて現在73で、シリーズ歴代8位タイ。通算出場大会数37はシリーズ通算最多だ。昨年9月にはアジアシリーズの韓国大会で初めてサクラセブンズにも選ばれた28歳が、史上初の3連覇の偉業を目指し、札幌に挑む。

若手がどんな人かわかってきた――堤ほの花(日体大)

堤ほの花

堤ほの花


藤崎と同じ28歳で札幌大会に挑むもうひとりの注目選手が日本体育大でOGとしてプレーを続ける堤ほの花だ。学年は藤崎より1歳下だが、熊谷大会直前に誕生日を迎え、今季は28歳での太陽生命シリーズ参戦。デビューしたのはシリーズ創設2年目の2015年第1戦、佐賀工3年で参加したチャレンジチームでいきなり13トライをあげ、決勝ではアルカス熊谷に敗れたがトライ王とMVPに輝いた。

以来大会の看板ランナーとしてトライをあげ続け、2023年熊谷大会では史上初のシリーズ通算100トライを達成した。昨年は東京五輪の準備で全試合を欠場、通算トライの1位はニア・トリバー(アメリカ代表、ディアナーフェニックスーながと)に抜かれたが、シリーズに復帰した今季は熊谷で3、北九州で5、花園で6と大会ごとにトライを増やし量産体制に入っている。この分ならニアに奪われた通算トライリーダーの座を取り戻すのも時間の問題かもしれない。


――しかし、好調にトライを取り続けていますね。


「そうですか? そうですね(笑)。まあ、大会を重ねてきて、みんながどんな人なのかわかってきたのが大きいかもしれない。いい形で仕掛けられていると思います」


堤がチームに合流したのは5月だった。パリ五輪を終えた今季もサクラセブンズで世界を転戦。2月のバンクーバー大会では世界4位、それに先立つ1月のパース大会と4月のシンガポール大会では5位。ともに東京&パリを戦った奥野(旧姓・原)わか花が代表を離れた今も、躍進するサクラセブンズのエースとして活躍を続けている。


「ワールドシリーズに行っていた分、一緒に練習できた期間は短かったこともありますが、実際に試合をやってみないとわからない感覚の部分がありますから。試合を重ねることで、その感覚がわかってきた」


特に今季の日体大は大内田葉月、杉本姫菜乃、齋藤紗葉、藤原郁、浦山亜子ら1年生が多くメンバー入りし、活躍している。堤にとっては初めて一緒に戦う仲間だ。


「たとえば(大内田)葉月は、お姉ちゃん(夏月:昨季の4年生、現パールズ)と似てるところがあるけれど、ちょっとした間合いの違いがある。そこをわかるためにも、どんどん自分で行って仕掛けてもらって、その様子を見ることで『この子はここまで行けるな』という感覚がつかめてくる。タックルされたときにどのくらい立って我慢できるか、オフロードはどれくらい投げてもらえるか。そのあたりを予測しながらプレーするのですが、それが大会を重ねるごとにうまくいくようになってきました」

チームとしては物足りない成績が続く。花園までの3大会の順位は6位、8位、6位。昨季は4大会中2大会で、一昨季は4大会すべてで進んだ4強に今季は一度も進めていない。スケジュール変更により、社会人トップチームには従来以上に世界のトップ選手が集結。大会の強度が上がり、大会がトップチームと大学生主体のチームに二極化しているという構図もある。

だがそんな中で、大学生チームで最も印象的な戦いぶりを見せているのが日体大であることも確かだ。北九州大会の準々決勝では熊谷大会優勝のパールズから終了直前までリードを奪った。花園大会のプール戦ではこの大会で準優勝の成績を残すナナイロプリズム福岡に17-21と肉薄した。

「チーム全体がまだ走り切れていない。勝てそうで勝てない試合が続いていますね。ここからどれくらい修正できるかです」


3大会を終えてのシリーズポイントは26で7位。首位パールズの56とは30点差がついている。1位に与えられるポイントは20点だから、残り1大会で逆転するのは不可能だ。しかし今季はグランドファイナル制が導入された。3大会までのポイントで8位までに入れば、最後の札幌大会では一発勝負。そこで優勝すれば年間チャンピオンを獲得できる。チャンピオンへのチャンスは、1位から8位までイコールコンディションだ。

トップチームの関係者からは「いちばんやりたくないのは日体大」という言葉が聞かれる。選手個々のポテンシャルが高く、ひたむきにプレーし、何点差をつけても最後まであきらめずに全員が走り続ける。ワンデートーナメントでは最も怖いチームなのだ。


そしてエース堤ほの花のシリーズ通算トライ数は134。ニアの最多記録は144。3試合しかないワンデートーナメントではちょっと遠いように思えるが、大爆発すれば1大会で追いつく可能性だってなくはない。まして、日体大が優勝するにはエースの大爆発が不可欠だ。チームの勝利と堤のトライは同じ直線上にある。

ながとの藤崎春菜と日体大の堤ほの花。

札幌のグランドファイナルでは、2015年から太陽生命シリーズを支え、走り続けてきた2人の28歳に注目したい。

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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