太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2025はいよいよ最終戦の札幌大会だ。
今年はグランドファイナル制を導入。熊谷、北九州、花園の3大会での獲得ポイント上位8チームは札幌大会の一発勝負で年間順位を争うことになった。ここまで3大会で一度も優勝がなくても、8位ギリギリでの通過だったとしても、札幌だけ勝てば年間チャンピオンになる。これが年間王者を決めるシステムとして相応しいかどうか、異見は多々あるだろうが(筆者のところにもたくさん届いている…)、ともあれ今年のチャンピオンはこうして決まる。
2025/08/16
文●大友信彦
もうひとつ、影響が気になるのは、このグランドファイナルがほとんどのチームにとって初めての舞台となる大和ハウスプレミストドーム(旧札幌ドーム)で、それもワンデートーナメントで行われることだ。ワールドシリーズも太陽生命シリーズも、多くのセブンズ大会は2日間ないし3日間にわたって大会が行われる。まずDAY1のプール戦を戦って会場の雰囲気、コンディションに慣れてからDAY2のトーナメントに臨む…という流れで大会は進むのだが、今回はトップ8がいきなりノックアウトトーナメントに入る。
酷なコンディションだ。初めての会場はどのチームにとっても慣れない要素が多い。それは裏返せば、不確定要素が多い分、有利とされる側の有利さが相対的に減ることを意味する。平たくいえば、不利な(下位の)側のチャンスが増えるということだ。ここまでの3大会でしっかりポイントを積み上げてきたチームにとっては「冗談じゃない」と言いたくなりそうなフォーマットだが……ここは「セブンズは何が起きてもおかしくない」という格言を思い出して、選手もファンも一発勝負を楽しもう。
優勝候補は、素直に見れば、ランキング上位のPEARLS、ながと、ナナイロか。
優勝候補は、素直に見ればここまでのランキング上位チームがあげられるだろう。
3大会終了時点のランキング1位は三重パールズだ。今季初戦の熊谷大会を制し、北九州では3位と後退したが、花園大会で今季2度目の優勝を飾った。今季はブラジル代表のトライ王タリア・コスタとガブリエラ・リマ、ニュージーランド代表のレジェンド、サラ・ヒリニとオリブ・ワザーストンというビッグネームを獲得。

タリア・コスタ
国内勢もサクラセブンズのステッパー須田倫代、日体大のトライゲッター大内田夏月を補強した。選手が増えただけではない。ラグビー王国のレジェンド、世界セブンズ最高の選手と謳われるサラが最高の見本となり、チームの意識の高さ、チーム愛の強さも高まった。熊谷大会を制した後、北九州大会で3位に終わったことで「花園には、チーム全員でハングリーさを思い出してやろうと決めて臨んだ」と山中美緒主将。躓いた分、より強くなった印象だ。

チームとしての一体感がより強くなった印象
そのパールズを追うのは、北九州大会で決勝を戦ったながとブルーエンジェルスとナナイロプリズム福岡だ。ながとはパリ五輪日本代表主将の平野優芽主将が攻守にチームを統率。フィジー代表で東京五輪銅のアナ・ナイマシ、加入4季目のオランダ代表プルーニー・キヴィットら存在感抜群の外国人選手を前面に出し、個に頼らない分厚い連携、オフロードパスの連続で魅せる。

平野優芽
ナナイロは37歳のレジェンド中村知春が攻守に、本当に、あきれ返るほどフル回転。人はどこまですごくなれるのか? 中村のハードワークがあるからこそ飛び道具のフィジー代表レアピ・ウルニサウのド級の突破力、決定力も生きる。戦力の足し算ではパールズ、ながとが上かもしれないが、凸凹な個性が嚙み合った時の勢いはすさまじい。桑水流HCの手腕に注目だ。

中村知春
グランドファイナル制の採用でどうなる!?トップ3以外のチームにもチャンスあり
例年通りのレギュレーションなら、3大会の成績で、総合優勝争いは以上3チームに絞られていたのだが、今季は前述のとおり、グランドファイナル制を採用。それゆえポイントで大きく差をつけられた5チームにもまだ年間総合優勝のチャンスがある。
中でも注目のチームが東京山九フェニックスだ。北九州大会では7位、花園では11位に沈み、獲得ポイントでは5位となったが、札幌大会ではエース奥野わか花をはじめ水谷咲良、西亜里沙とパリ五輪のサクラセブンズトリオが揃って復帰。北九州と花園ではやや孤立気味だった(それでも出色の活躍を見せていたが)カナダ代表チャリティ・ウィリアムスの負担が減れば、攻撃力はトップクラスだ。

熊谷大会で負傷した奥野わか花が復帰する東京山九フェニックス
横浜TKMは花園大会で今季最高の4位に入り、尻上がりに調子を上げている。フランス代表の司令塔ヨレイン・イェンゴが大会を重ねるごとに選手の持ち味を引き出すオプションを増やしている。サクラセブンズの内海春菜子、さらに堀毛咲良も第2、第3の司令塔として攻撃の起点を増やしているのも面白い。アテカ・レイヤモ、パラワン・メラニアら決定力のある飛び道具もそろっていて、一発勝負ではどんな相手にでも勝つ可能性を秘める。

シーズン終盤、ヨレイン・イェンゴもチームにフィットしてきたTKM
大学生主体のチームで唯一、グランドファイナルに勝ち進んだのが日体大だ。今季は6位、8位、6位と、一度も4強入りを果たせてはいないが、北九州大会の準々決勝ではパールズを相手に終了直前までリードを奪うみごとな戦いぶりを見せた。サクラセブンズの谷山三菜子、高橋夏未というダブル司令塔のリードのもと、ルーキー大内田葉月が突破役としてブレイク。大学生になって一回りサイズアップし、フィジカル面でも強くなっているのが頼もしい。FWの突破を担う松田奈菜実、そしてエース堤ほの花と多彩なキャラクターが揃っているのも強みだ。

谷山三菜子
北九州大会でチーム史上最高の4位に食い込み勢いに乗っているのが自衛隊体育学校PTSだ。エースに成長した黒田美織は3大会で全体4位の17トライ。国産選手では平野優芽と堤ほの花を抑えてトップの決定力を見せている。札幌大会ではFWの新星・勇美玲が負傷で欠場。登録10人で臨むが、黒田は「ワンデートーナメントは人数が少ないウチにはありがたいです」とプラスに受け止めている。

黒田美織
そしてホストチームの北海道バーバリアンズディアナ。昨季のチャレンジャー大会で優勝し、今季は新昇格。吉田鳳子主将は開幕前から「目標は札幌大会でグランドファイナルに残ること」と公言していたが、その公約をみごと達成。北九州大会で負傷したウガンダ代表の『フェラーリ』エメリー・レクルも復調して登録された。サクラセブンズのエース三枝千晃との強・速ペアの決定力、それを引き出す司令塔の佐藤優も好調だ。

三枝千晃
ディアナは今年3月にブレイブルーパスが札幌で試合をした際、エキシビションマッチでブレイブルーヴとこのドームで対戦。グランドファイナル出場8チームで唯一、このドームでのプレー経験というアドバンテージも持つ。太陽生命シリーズの札幌開催は2014年の定山渓以来で、市内では初めて。地元の声援を受けて、2017年の総合4位を塗り替える史上最高順位を取りに行く。

地元開催のディアナ。ベスト4入りを目指す!
トライランク

花園大会終了時のトライランク
得点ランク

花園大会終了時の得点ランク
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |