8月7日、ラグビー日本代表、エディー・ジョーンズHCが都内でメディアブリーフィングに出席。この夏に行ったウェールズ戦を総括、さらに今後の強化についても言及した。
エディー・ジョーンズHC
――ウェールズ代表との2試合を振り返って?
ウェールズ代表とのシリーズから何を学んだか。4つのエリアがあります。
1つ目は、感情をどうコントロールするかというスキルを育成しないといけない。ウェールズ代表の2戦目で、感情的に正しいマインドを持つかというところが着目したところでした。やはり、若手からすると 2戦目に照準合わせるのは大変で、訓練が必要です。そこに着手していきます。
2番目はアタックのバランスですね。近年のラグビーは、空中でのコンテストが激化しています。各試合 30回、空中のコンテストがありますが、超速ラグビーを体現していかないといけない。キックを交えながらアタッキングゲームをしていかないといけない。PNCで発展させていきたい。

エディー・ジョーンズHC
3つ目はディフェンスの安定です。すぐに発表されますが、新しいDFコーチの下、容赦ないディフェンスのスタイルを確立していきたい。
4つ目は、リーダーシップを強化、育成しないといけない。ウェールズ代表では、リーチが戻ってきた。素晴らしい仕事をしてくれました。でも(キャリアの)終盤を迎えている選手で、毎回、最後だという気持ちでやっている。彼のリーダーシップなくなったところで、誰がそこを埋めるか。PNCでは、そこを強化、育成する絶好のチャンスだと思います。
ライオンズ対オーストラリアのテストマッチ、非常に楽しみました。特に2戦目、久々に素晴らしいテストマッチを見ました。コンテスト、継続性が素晴らしいバランスで、一方がモメンタムを失うと、相手チームが勢いを増した。
あの試合を見ると、オーストラリア代表の80%のポゼッションが右側だった。逆半分がなかった。左側には誰もいなかった。ボックスキックの重要性が関係していると思いますが、ジャパンがトップレベルで戦うとなると、あのような試合で競らないといけない。あのようなゲームでも崩して、オープンな展開にもっていかないといけない。今後のラグビーの発展は興味深いです。

――今後、世界のラグビーのアタックの戦術はどうなっていくと思うのか?
アタックの理想、勝ち方の理想的な形があります。戦い方に関して、世界中で行われているのはデータで行われている。ラグビーで最も効果的なアタックは、キックとゼロパス(パスをしないこと)、あとは3回のパスでプレーすることです。
我々もラック周りでかなりハードにプレーして、すぐに動かして大きなスペースにボールを運ぶ。スキル、パワー、ペースが必要です。そしてしっかりチャンスをものにする。アタックのオーガナイゼーションも必要で、スキルも必要です。常にラグビーは発展しています。日本代表は新しい戦い方を見いださないといけない。他のチームを真似ることはできない。大きなチャレンジです。

李承信のキックパス
――キッキングの今後の使い方や、スキルを教えるコーチを呼ぶのか。
PNCでもフランシスコーチを招集します。あとは、本当はリーグワンで、キック力を上げてもらいたい。インタ-ナショナルレベルで、時間が限られているので、新しいスキルを育成することはなかなかできない。戦略的にキックにおいては優れていないといけない。
今、試行錯誤していることがあります。あくまでも持論ですが、ポジティブポゼッション、ネガティブポゼッションを差別化しています。ポジティブポゼッションはボールキープしたい。ネガティブポゼッションは、2回、ラックを重ねて、ディフェンスがセットされている。ディフェンスがセットされると肩が正面を向いて、セットされている。
するとディフェンスが有利になる。ネガティブポゼッションのときは、戦略的に キックして、新たなコンテストを生んで、そこから再びアタックをする機会を作る。そこをどうやってやるか、コーチングしていくかは熟考しています。
――ウェールズ代表シリーズで、ラック周り、ブレイクダウンの評価は?
基本的には良かった。ただファーストフェーズは良くなかった。ウェールズ代表との2戦目では、ファーストフェーズで4回、ターンオーバーされた。問題は、ストラクチャープレーのオーガナイズなので、そこを整備しないといけない。ただブレイクダウンスキルは上達していると思います。
2戦目は、相手のダブルジャッカルに対処することができなかった。インサイドプレイヤーがしっかり、もっとはやくボール寄らないといけないし、ボールキャリーもハードワークしないといけない。でも方向性は間違っていないと思います。

――9月で、(2015年W杯で南アフリカに勝利した)ブライトンの奇跡から10年になります。この10年で、日本のラグビーの成長と課題は?
そこは自分が言う権利はないと思います。ずっとジャパンにいたわけではないですし、自分はこの1年半しかみていない。
けれど、ジャパンラグビーで一番大きな変化は、2015年W杯の選手たちは、完全にアマチュアでした。プロの選手もいましたが、精神的にはアマチュアでした。準備の仕方もアマチュアでしたが、けれど、すごい偉業を達成しました。
2019年W杯は、もっとプロだったと思います。今は完全にプロです。(現在の日本代表で)社員なのはSH北村くらいでしょうか。
プロフェッショナリズムの初期段階はまた違ったものがあります。1996年、オーストラリアでプロ化になったときを経験しましたが、選手たちからは違うフィーリングを感じます。解決法はわからないし、選手の感覚をどう理解するかわからないが、初期段階は 生粋のプロではない。プロということはどういうことかというと、選手としてやるべきことは独自でやる。
プロとして、トレーニングに来るためにお金をもらっているのではなく、勝つことでお金をもらう、仕事になっている。チームとして過ごすのは、例えば、だいたい1週間で10時間だとすると、残りの20時間は自分の時間です。自分で分析、スキルを育成する。日本のラグビーがさらに改革を起こすには次のステップが必要です。
あと明らかなことがもう1つあります。10年前、トップリーグはフィールドに外国人が4~5人、日本人10人くらいでしたね。 今は外国人が11、12人で、日本人が3~5人ですね。完全に逆転していますよね。100%断言できないし、思っていることだが、日本人の選手が自信を失っている。(試合に出る選手に)選ばれないと自信をつけるのは難しい。
我々は日本代表なので、日本人のチームを求められていると思う。外国人選手が必要ですが、日本人が主体となってリードしていくチームを作っていかないといけない。今、選手たちはそういう感覚を持っていないかもしれない。あからさまに、誰が見てもわかるとこはそこだと思います。

2019年9月に熊谷ラグビー場で行われた南アフリカとのテストマッチ
――11月1日頃に、日本代表と、世界ランク1位の南アフリカ代表と戦う可能性があると報道されています。是非やりたいのか?
世界のベストチームとプレーすると学べると思います。それ以上のものはないと思います。時間もスペースもない、そして、フィジカル的にも圧倒されることがわかっている。そういういう環境の中でプレーしないと経験できないことがある。実現すれば素晴らしいチャンスだし、世界のベストチームに対して、自分たちがどこにいるか、ベンチマークとなる。南アフリカ代表は、パワーゲームを新しいレベルまで引き上げている。我々は真逆のことをしなければいけない。素晴らしいチャンスですし、実現することを願っています。

22000人を超す大観衆が訪れた
――PNCを経て、秋のテストマッチでは、強豪との対戦が控えている。何を求める戦いになる?
テストマッチごとに成長することです。しっかりと 相手に対して攻めの姿勢を取りたい。ジャパンのように、ジャパンらしく戦う。それを各テストマッチで 長い時間できるようにしていきたい。PNCの後、素晴らしいツアーが控えています。オーストラリア代表、アイルランド代表、ウェールズ代表、ジョージア代表戦があります。これ以上の経験を得られるシリーズはないです。
――10年前、日本代表が南アフリカ代表戦に勝ったことは、日本ラグビーにどんな影響を与えたか?
ラグビーがポピュラーなスポーツになった。子どもたちがラグビーをやりたいと思ったり、多くのスポンサーがラグビーに注目したり、他国もジャパンとの対戦を望んだ。
ウェールズ代表との対戦の週、リーチと話をしたが、以前は、カザフスタン、スリランカ、フィリピン、韓国と対戦した。その国々がどうといっているのではなく、今後はオーストラリア、アイルランドと対戦していく。自分たちが大舞台に立てた、(トップの)仲間入りできた。ラグビーがポピュラーなスポーツになり、スポンサーが関わりたいと思い、リーグワンがプロになる火付け役になったのかもしれません。

素晴らしいリーダーシップを発揮したリーチ・マイケル
これから何をしないといけないか。成功するためのシステムを構築しないといけない。成功を維持するためには、定期的にタフで、フィットで、スキルを合わせ持つ選手が流動的に流れてくると、チームが成功していく。成功したことがあっても、育成や準備で成功に見合っていない状況もある。我々はそこに着手している。昨年、JTSを初めて、今春、U23をツアーにつれていって、その中から3~4人がW杯に出てくることを願っています。それを継続的にやっていきます。
コーチが誰であろうと、ジャパンラグビーで、欠かせない要素です。ハイレベルな環境を、若手選手に機会を与えないといけない。大学ラグビーを批判しているわけでもなんでもないですが、早稲田、慶應、明治、天理、京都産業大で4年間やっても、W杯でベストな選手になれるわけがない。追加で、それにプラスで、ラグビーの経験を与えないといけない。ラグビーの経験というのは、ワールドクラスのトレーニングです。海外で、違う対戦相手と対戦することです。
――10年後、日本協会は2035年ワールドカップを呼びたいと話していますが、その頃は何をしていると思いますか?
奥さんに面倒見てもらっているかもしれませんね(笑)。今はカナダ代表戦しか意識していません。
――2027年、オーストラリアで開催されるW杯はどんな大会にしたい?
(自分はオーストラリア人と日本人のハーフなので)完璧な大会です。2015年、2019年W杯は世界中がジャパンを見たいという大会だった。それをもう1回やりたい。W杯の前日までには、それを達成できるようなチームを作りたい。