サクラ15こと女子15人制日本代表が、福岡で開かれたアジアエミレーツチャンピオンシップ2025(以下アジア選手権)でカザフスタンを90-0、ホンコン・チャイナを63-5で破り、2戦2勝で優勝を飾った。日本は2023年に大会が再開されてから3年連続優勝。
日本は4月のアメリカ遠征でアメリカを39-33で破りカード初勝利。今回のアジア選手権では、FL長田いろは主将やSH津久井萌、CTB古田真菜、LO佐藤優奈らこれまでプレータイムの長かった主力をリコンディショニングする「強化合宿」メンバーとし、大会には若手を加えて編成。
長く代表を離れていた永岡萌(横浜TKM)、山中美緒(三重パールズ)、ノンキャップの大内田夏月、甲斐早智子、古屋みず希(三重パールズ)、松永美穂、小島晴菜、吉田菜美(横浜TKM)、岸本彩華、水谷咲良、村瀬加純、西亜利沙(東京山九フェニックス)らを招集。元早大コーチの今田圭太氏をHC代行に迎えて大会に臨んだ。

集合写真
第1戦 カザフスタン戦 90-0
第1戦のカザフスタン戦は5月15日に福岡市のJAPAN BASEで行われ、日本は5分にCTB小林花奈子のトライで先制。主将の向來桜子が3トライ、LO西村澪が2トライをあげるなど前半だけで5トライ。後半はさらに加速して9トライ、計14トライを奪い、女子日本代表のテストマッチ最多得点となる90-0で圧勝した。従来記録は2013年香港戦(アルマトイ)の82-0。
この試合では、昨年のパリ五輪に日本代表(サクラセブンズ)で出場した水谷咲良がNo8で、西亜利沙が前半33分から交代SOで出場したのをはじめ、PR吉田菜美、HO小島晴菜、LO松永美穂が途中出場で初キャップを獲得した。

西亜利沙

妹尾安南

垂門奈々

町田美陽
テストマッチ初先発となったPR町田美陽、SH妹尾安南、WTB垂門奈々の日本経済大トリオは地元・福岡での試合とあって気合い十分。松永は32歳での初キャップだったが、交代でピッチに入ると最初のボールタッチでトライを決める冴えをみせた。

松永美穂

小島晴菜
続くホンコン戦は中9日というインターバルをあけての試合だったが「もう一度メンバーのセレクションをしてチーム内の選手層を厚くするため、高強度の練習を繰り返したことで団結力が生まれました」と向來主将は話した。

向來桜子
サクラXVのスタメン変更はWTB11に垂門に替わって大内田夏月が入っただけ。だが試合が始まると、テストマッチ初登場初先発となったこの大内田が大爆発した。

大内田夏月
まず24分、大内田は左サイドでパスを受け、デビュー戦初トライ。3分後にはハーフウェーでボールを受けるとステップを利かせて相手DFの小さなギャップに走り込んでみごとな5人抜き50m独走トライ。後半も5分に力強いランで3本目のトライを決めると、終了直前の38分にも左隅を走り切り、デビュー戦で4トライのスーパーパフォーマンス。POMを受賞した。

大内田夏月
サクラXVでのテストマッチ1試合4トライは2013年9月、ワールドカップアジア予選香港戦で山口真理恵があげた6トライ以来の量産だ。
大内田夏月は筑紫高2年の2019年、太陽生命ウィメンズセブンズシリーズの裾野大会にチャレンジチームで出場。日体大進学後も走れる司令塔としてセブンズ、15人制ともエース格の活躍を見せてきたが、サクラXVには2023年2月の熊谷合宿と8月の福岡合宿に呼ばれただけ。2024年はまったく招集されていなかったが、初めてテストマッチのチャンスを得るや大爆発のパフォーマンスだ。
姉の優月は山口大医学部に通いながらながとブルーエンジェルズに参加。2022年3月の静岡合宿でサクラXVのスコッド入りしたがテストマッチには出場できず、昨季限りで現役を引退した。妹の葉月は今春日体大に入学、末妹の彩月は修猷館高2年で、昨年12月のグローバルユースセブンズには揃って出場して優勝したが、ともにシニアデビュー前。大内田4姉妹のキャップ、テストマッチトライ、ハットトリック、POMそれぞれの第1号はこの日、二女の夏月が達成したわけだ。
カザフスタン戦で初キャップを得たばかりのNo8水谷、SO/FB西というパリ五輪サクラセブンズ組2人も強いインパクトを残した。

水谷咲良
水谷は前半13分にラインアウトモールからトライを決め、17分にはスティールでPKを奪い小林のトライの起点を作った。西は後半10分にSO大塚との交代で入ると、鮮やかなパスで大内田を走らせWTB香川メレのトライをセットアップ。35分には自ら左隅を駆け抜けてテストマッチ初トライ。終了直前の38分には大内田の4本目のトライへ鮮やかなラストパス。30分のプレータイムで1トライ1.5アシスト(?)というハイアベレージな活躍をみせた。

小林花奈子
もうひとり、強いインパクトを残したのはCTB小林花奈子だ。
開始9分、FB西村のゴール前のグラバーキックに鋭く反応。TMOの末にグラウンディングが確認されて先制トライ。17分にはラインアウトから出たパスを受け2本目のトライをあげると、後半30分には相手ゴール前のスクラムから出たボールをキャリー。相手タックルを突き抜けてトライを決めハットトリック。
小林は初戦のカザフスタン戦でも開始5分にタックルで落球させるとすぐに立ち上がってサポート、拾ったNo8水谷-SO大塚のパスをもらって先制トライ。
イングランド・プレミアシップのエクセターで3シーズンにわたって活躍してきたフィジカルの強さを発揮し、2019年の代表デビュー以来19キャップ目で通算トライを7とした。
また、大会初戦のカザフスタン戦にFLで途中出場して2019年以来6年ぶりのキャップを獲得した永岡萌は、ホンコン戦では途中からフッカーで出場。今後、フロントローでハードワークを続けながらバックローで磨いた走力とスキルを発揮できるかどうか。
サクラXVは63-5で勝ち、2戦2勝。コロナ禍から再開された2023年から3年連続のアジア制覇を飾った。
サクラXVはこのあと6月には菅平で強化合宿を行い、7月19日に北九州、同26日に秩父宮でスペイン代表と対戦。8月から9月にかけてイングランドで開催されるワールドカップで戦うアイルランド、ニュージーランド、アメリカとの戦いに備える。

スコッド全員

今大会で初キャップを獲得した選手たち(左から村瀬加純、大内田夏月、水谷咲良、西亜利沙、小島晴菜、吉田菜美、松永美穂)
JRFUから発表されたHC・選手のコメントは以下の通り。
今田 圭太HC代行

ホンコン戦・国歌斉唱
「カザフスタン戦からここまで、選手たちが練習中からファイトしあい、チーム力を高めてきた結果がこうして現れた事がとても嬉しいです。メンバー、メンバー外、全ての選手たちの素晴らしいパフォーマンスで爆速ラグビーを体現し続けてくれた事をとても誇りに思います。ワールドカップに向けて、これからも女子ラグビーの応援をよろしくお願いします」
向来 桜子主将

ホンコン戦・向來桜子
「悪天候の中、会場まで足を運んで応援してくださり、本当にありがとうございました。まずは、2試合とも無事に勝利することができて、とても嬉しく思います。この結果は、試合に出場した23人だけでなく、スタッフやサポートメンバーを含めた全員の力があってこそのものです。チームとしては、2戦とも立ち上がりから自分たちのミスで苦しい時間が続きましたが、選手同士で修正しながら、私たちの目指す“爆速"のプレーを体現できたと思います。個人としては多くの課題が見つかった大会でもあったので、これからさらに成長していけるよう努力していきたいです」
大内田 夏月

大内田夏月
「たくさんの応援ありがとうございました。チームとして、取り組んできた“爆速"を全員で体現し、勝利につなげることができて嬉しいです。個人としては、初めて挑戦したWTBで、みんなが身体を張って繋いでくれたボールをトライに結びつけ、POTMをいただくことができて感謝してます。これからも、さらに成長していけるよう頑張ります。今後とも応援よろしくお願いいたします」
小林 花奈子

小林花奈子
「沢山の応援ありがとうございました。サクラフィフティーンとして短い準備期間にも関わらず全員が自分の役割を理解し、試合に臨めた結果だと思います。個人としてはこのARCが自分の自信を取り戻す機会になればと思い臨んだ大会でもあります。試合で前に出る私らしいプレーができたのでこれを自信にワールドカップを目指してこれからも頑張っていきたいと思います。これからも応援よろしくお願い致します」
水谷 咲良
「たくさんの応援ありがとうございました。2試合を通して自分の強みを活かすことができたところもありましたが、課題も多く出た大会となりました。チームとしては前半自分たちのミスできつい時間はありましたが、80分間この2週間で準備してきたことをしっかり出して爆速ラグビーを体現できたと思います。今後とも応援よろしくお願いいたします」
GALLARY

カザフ戦・安藤菜緖トライ

カザフ戦・西村澪トライ

カザフ戦・スクラム

カザフ戦・西村蒼空キック

カザフ戦・2022年以来のテストマッチ先発の細川恭子

ホンコン戦・小鍛冶歩
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |